「せっかく入った若手が、すぐに辞めてしまう…」
「昔は『見て盗め』で育ったもんだが、今の若い奴には通用しない…」

足場業界の未来を担う若手の育成は、多くの職長や親方にとって切実な悩みではないでしょうか。人手不足と高齢化が深刻化する今、若手の定着と成長は、会社だけでなく業界全体の未来を左右する重要な課題です。
原因は「最近の若者の根性が足りない」からだけではありません。時代が変わり、価値観が多様化する中で、私たち「教える側」の指導法もアップデートが必要です。
この記事では、なぜ伝統的な「見て盗め」という指導法が通用しなくなったのかを解説し、明日から現場で実践できる具体的なコミュニケーション術を3つのステップでご紹介します。若手のやる気を引き出し、共に成長できる強いチーム作りのヒントがここにあります。
1. なぜ「見て盗め」は通用しなくなったのか?
かつては当たり前だった「見て盗め」の精神。しかし、これが現代の若手に響きにくいのは、主に以下の3つの理由が考えられます。
- ① 価値観の変化:「成長実感」と「納得感」の重視
終身雇用が当たり前ではない今、若者は会社への帰属意識よりも**「この場所で自分がどう成長できるか」を重視します。理由もわからずただ黙々と作業をこなすだけでは成長実感が得られず、「もっと効率的なやり方があるのでは?」という疑問が不満に変わってしまいます。「なぜこの作業が必要なのか」という納得感**が、彼らのモチベーションを大きく左右するのです。 - ② 安全意識の高まり:「やってみろ」では済まされない
建設業界全体の安全基準が厳格化された今、昔のように「とりあえずやってみろ」という指導は、大きな事故に繋がるリスクをはらんでいます。先に手順と理論、そして潜む危険性をしっかり教えることが、本人と会社を守る上で不可欠となっています。 - ③ 情報化社会の影響:論理的な説明の必要性
スマートフォン一つで何でも調べられる時代に育った若者は、感覚的な指示よりも論理的な説明を求めます。ただ「こうやれ」と指示するだけでなく、「こうすることで、次の工程がスムーズに進むから」「この手順を守ることで、事故のリスクを減らせるから」といった背景を説明することで、彼らの理解度と定着率は格段に上がります。
2. 若手がグングン育つ!職長の“新”コミュニケーション術【3つの実践ステップ】
では、具体的にどのように若手と接すれば良いのでしょうか。ここでは3つのシーンに分けて、具体的な方法をご紹介します。
ステップ1:若手が「質問しやすい」雰囲気の作り方
「いつでも聞いてこい」と言葉で伝えても、忙しそうな先輩に声をかけるのは勇気がいるものです。
- 「質問タイム」を設ける: 朝礼後や休憩の終わり際に「何か分からないことあるか?」と、職長から聞く時間を作りましょう。「いつでも」という曖昧さではなく、具体的なタイミングを示すことで、若手は安心して質問できます。
- 「こんなことも知らないのか」は禁句: この一言は、若手の質問する意欲を完全に奪ってしまいます。代わりに「良いところに気づいたな」「そこ、分かりにくいよな」と、質問自体を歓迎する姿勢を見せることが大切です。
- 自分の失敗談を話す: 「俺も昔、ここで失敗してな…」と職長が自らの経験を話すことで、若手は失敗を過度に恐れなくなり、心理的な安全性が確保された現場になります。
ステップ2:「指示待ち」にさせない、考えさせる教え方のコツ
ただ言われたことをこなすだけでなく、自ら考えて動ける職人に育てることが重要です。
- 「What(何を)」から「Why(なぜ)」へ: 「あの部材を持ってこい」だけでなく、「次に〇〇を組むから、それに必要な部材は何だと思う?」と問いかけてみましょう。作業の目的を考えさせることで、若手は全体像を把握し、次の一手を予測できるようになります。
- 小さな成功体験を積ませる: 簡単な作業でも、一部分を任せてみましょう。そして、完了したら「助かった、ありがとう」「段取りが良かったな」と具体的に褒めること。これが自信に繋がり、次の意欲を引き出します。
ステップ3:失敗は成長の糧!効果的な「叱り方」とフォロー術
危険が伴う現場では、時には厳しく指導することも必要です。しかし、その「伝え方」が重要です。
- 人前で怒鳴らない: 叱る時は、必ず1対1になれる場所に呼びましょう。大勢の前での叱責は、ただの晒し上げになり、本人のプライドを傷つけ、周りも萎縮させてしまいます。
- 「人格」ではなく「行動」を指摘する: 「お前はダメな奴だ」といった人格否定はNGです。「今のやり方は、事故に繋がるから危険だ」というように、具体的な行動とそのリスクを感情的にならずに伝えましょう。
- 叱った後のフォローを忘れない: 伝えっぱなしでは、ただの恐怖政治です。「次はどうすれば防げるか一緒に考えよう」「分からないことがあったら、作業を始める前に必ず声をかけてくれ」と、寄り添う姿勢を見せることが信頼関係を築きます。
3. 【若手職人へ】先輩に可愛がられる「上手な学び方」
これは教える側だけでなく、教わる側も意識することで、より良い関係が築けます。
- 仮説を持って質問する: ただ「分かりません」と聞くのではなく、「自分はこう考えたのですが、合っていますか?」と質問することで、あなたの思考力とやる気が先輩に伝わります。
- メモを取り、感謝を伝える: 教わったことはメモを取り、同じことを何度も聞かないように努めましょう。そして、「ありがとうございます、勉強になります!」と感謝を伝えることで、先輩も「また教えてやろう」という気持ちになります。
【まとめ】
「見て盗め」が通用しない現代において、若手を育てる鍵は双方向の丁寧なコミュニケーションにあります。
指導法のアップデートは、若手のためだけでなく、チーム全体の生産性を高め、会社の未来を創るための最も重要な投資です。昔ながらの職人気質という素晴らしい文化を大切にしながらも、時代に合わせたコミュニケーションを取り入れ、世代を超えた強いチームで、これからの足場業界を共に盛り上げていきましょう。



